別の見方をすれば『今の国内TCG市場はカジュアルプレーヤーが付け上がるのは無理も無い』って状況なんだけどね。
掲題の件。
ガチプレーヤーにとって、カジュアルプレーヤーは養分なのだから、ディスってもメリットがない。不快にさせてカジュアルプレーヤーがTCGを辞めてしまったらアド損。むしろ、ガチプレーヤーには気持ちよくTCGを遊んでもらって、メーカやショップにお金を落として貰った方がアド得になる。
詳しい論理展開は過去のエントリで説明済みなので、そちらを参照。
http://tocage.jp/blog/3153/1320772076.html
上記のエントリでは公式イベントでの話だったから、ガチプレーヤーの事を「トーナメントプレーヤー」と表現しているけど、メルヴィン-スパイクの事を指しているのだから同義。
**おさらい:MTG的なプレーヤー分類方法
前のエントリにも書いた、『MTGのデザイナーが書いた文章に登場する、カードを作る時想定するユーザのプレイスタイル』の話。
TCGの作り手は『下記の全ての層に対して』カードを作っていること。
(1)ティミー,ジョニー,スパイク
『TCGに何を求めているか』の観点からの分類
・ティミー:カードをプレイする事で、何かを体験したい
・ジョニー:独創的なデッキを作る事で、自己表現をしたい
・スパイク:他のプレーヤーに勝利する事で、自分の優秀さを証明したい
(2)メルヴィン,ヴォーソス
『何をもってTCGを評価するか』の観点からの分類
・メルヴィン:システム的な部分
・ヴォーソス:背景世界やフレーバーテキストや原作再現的な部分
プレイスタイルは、(1)と(2)の組み合わせで表現される。場合によっては(1)や(2)単独でも表現されるけど。
ガチプレーヤーは、メルヴィン-スパイクになる。
カジュアルプレーヤーは上記以外、(1)で言えばジョニーやティミーだし、(2)で言えばヴォーソスになる。
例えば、キャラ単デッキを回して楽しむ人はヴォーソス-ティミーだし、コミュニケーション手段として勝敗を気にせず単純にゲームを楽しむ人はメルヴィン-ティミーだし、声優単デッキとか絵師単デッキとかそう言うデッキを作って楽しむ人はヴォーソス-ジョニーだし、独創的なコンボデッキとか作って他人を驚かすような事を好む人はメルヴィン-ジョニーである。
**ケーススタディ1:MTGの変遷
競技性の高いTCGの実例を上げ、メルヴィン-スパイク一辺倒ではTCGが成り立たなかった事を説明してみたい。
MTGは、10年以上前にあった最初のTCGブームの主役であった。
あの頃、国内でメルヴィン-スパイクが好んで使っていたデッキタイプで、カジュアルな他のプレイスタイルの人から嫌われていたデッキに、ロックデッキとパーミッションデッキがあった。
ロックデッキは、相手のリソース生成を妨げて、行動不能にして勝つデッキ。
パーミッションデッキは、相手がカードをプレイするのをカウンターして妨げるデッキ。
現在の国産TCGは「イベントカード的な物はカウンターできるけど、キャラクターカード的なもののプレイはカウンターできない」ってのが普通だから想像しがたいだろうけど、MTGのカウンターは同じカードでイベントカード的な物もキャラクターカード的な物もカウンターできる。
どっちも、対戦相手が何も出来ない状態にして勝つデッキであった。
MTGにはスタン落ちがあり、定期的にカードプールが入れ替わるのだが、ある時期を境に、ロックデッキのパーツとなるカードが作られなくなり、カウンターカードのコストが上昇して使い勝手が悪くなった。
同時に、MTGにおけるキャラクターカード的な存在である、クリーチャーカードのコストパフォーマンスが向上した。
結果、カジュアルプレーヤーが嫌うようなデッキタイプが消え、クリーチャー同士で殴りあうゲームが主体となるようになった。
こうしたゲーム環境の変化に加え、カジュアルな遊び方を提供するEDHと言うレギュレーションが普及したおかげで、MTGは今でも一定の人気を保っている。
**ケーススタディ2:ディメンション・ゼロ
今でも一定のユーザが居るMTGとは対称的に、『賞金制TCG』として登場し一時期人気の高かったD0は今や殆ど影も形も残っていない状況になってしまった。
D0は賞金制という事でメルヴィン-スパイクをメインのターゲットとして始まったが、「赤王決定戦」とか「無限回収グランプリ」とか、メルヴィン-スパイク向けとして見たら迷走とも言える企画を経て、最終的に賞金制の看板を下ろしてしまった。
ゲーム性も良かったし、バランスも悪くなかったし、ルールの整備もテキストのテンプレート化もしっかりしていた。
デザイン面では悪い点は無かったのに、駄目になってしまったのは、メルヴィン-スパイク一辺倒ではTCGが成り立たない事を証明したと言えるだろう。
**自分語り
こんな事を言う俺も、昔はメルヴィン-スパイクだった。
MTGではロックデッキやパーミッションデッキが好きだった。
ロックデッキだと《Stasis/停滞》を使ったデッキを愛用していたし、《Winter Orb/冬の宝球》と《Icy Manipulator / 氷の干渉器》を組み合わせたプリズンも好きだった。他にもリス対立デッキとかアグロウォーターも使っていた。
パーミッションデッキだと、カウンターポストとかメダリオンブルー愛用していた。
戦績的には、APAC国内予選やファイナルズの予選は突破できるけど、決勝は勝ち抜けない程度の能力。
アクエリも長いこと遊んでいたけど、やはりメルヴィン-スパイクだった。
最初のエキスパンション『覚醒の乙女達』の時代は《ちょー銀河こんぴーた りせっとちゃん》と言う壊れカードを愛用してたし(次のエキスパンションが出ると前後してエラッタがかかる)。
『双児宮の鏡』以降は焼きデッキと言う上記の説明で言うロックデッキを使用してたし。
戦績的には、ベスト8が2回に、全国優勝が1回。
当時を振り返ると、ロックデッキやパーミッションデッキを使っていたことで、カジュアルなユーザを減らしていたことは否定しない。
当時はそれで良いと俺も考えていた。
Vスパークで言ったら「Vスパークは運ゲーでは無くて、構築ゲー」「構築の幅が無くて面白くないから、キャラ単デッキは嫌い」「原作再現関係なく既存の技属性を使ってくれれば、技属性メタカードが刺さったり、スタンで構築の幅が増えたりして好ましい」などと主張するガチプレーヤー達と考え方や言動は変わらなかった。
考え方が変わったのは、上記に書いたように、MTGの変遷やD0の没落を見てきたからだし、書かなかったけどアクエリの没落を見てきたから。
D0やアクエリが没落していく中、遊戯王やヴァイスやデュエマが隆盛を誇り、MTGもこれに合わせて変わって行くのを見れば考え方が変わる。
**ガチプレーヤーはどうすれば良いのか?
メーカもショップも儲からなければ、そのTCGは続かない。
メルヴィン-スパイク以外の他のプレイスタイルを受け入れて、共存あるいは住み分けをすれば良い。
もし、どうしてもメルヴィン-スパイクを主軸に据えたTCGで遊びたいのであれば、するべき事は、メルヴィン-スパイクだけを対象にTCGを作っても充分に利益を上げられるとTCGメーカを説得する事になるだろう。間違っても、巧みな弁舌・高い日本語力を使って、カジュアルプレーヤーを論破する事では無いかと。
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テーマ:日記 | 投稿日時:2012/05/26 09:48 | |
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Nakaji さん | [2012/05/26 10:37] |
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補足。
「自分語り」の段落で「考え方が変わった」って書いたのは、プレイスタイルが変わった事を意味してない。 カジュアルプレーヤーと共存や住み分けをしなくて良いって考え方を改めたって意味だからね。 この点が不明瞭だったので、明確にしておきます。 今でも、時間さえあればガチプレーヤーとしてもTCGを楽しみたいのだけどね。 1度、全国優勝をしているから、全一を取るのに掛けないとならない時間がわかっているので、それだけの時間がとれないとガチプレーヤーする気になれないのだよね。 |
IWANKO さん | [2012/05/26 11:41] |
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ガチを極めた人だけが書ける大変濃い内容のいい記事だと思います。
なんでもそうですが、どれだけ裾野を広げられるかが、 その後の発展に大きく影響しますからね。 面白い記事ありがとうございました。 |
めそうさぎ さん | [2012/05/26 17:00] |
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極めて興味深い記事でした。
勉強になりました。通りすがりですが、ありがとうございました。 |
Nakaji さん | [2012/05/28 01:04] |
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>ケンタ店長さん,メソ兎さん
まとめてのレスで失礼します。 こう言うお褒めの言葉だけでもコメント頂けると、記事を書く側としても励みになります。 ありがとうございます。 |
春のわさび さん | [2012/05/30 17:09] |
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とても興味深いお話でした。
考え方が少し変わりそうです。 もう少し気の利いたコメントを残せると良いのでしょうが…今の所はこれで目一杯。 ありがとうございましたm(_ _)m |
しげお@あくらい さん | [2015/07/16 07:10] |
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TCGに限らず全てのゲームに当てはまる内容ですね。 凄く面白くそして考えさせられるブログです! |