ブラックポイントが開いてから数年。
俺はあの日から生きることだけを考えて生きてきた。
我が家を含む関東の上空を覆う黒の世界のブラックポイントが現れてから。
あの日、目の前で両親がディアボロスに惨殺されてから。
・ ・ ・ ・
ふと、会社の事務所のソファーで寝そべっていた青年は数年前のことを考えていた。
「まぁ、人生なるようになるもんだなぁ。」
青年は、まだ横に寝そべりながら、かつてプラセクト達に襲撃されて、無人となっていた事務所の中を見渡す。
そこには、その時割れた窓ガラスの破片や散らばった紙等は無く、別の物が山積みになっていた。
それは、剣や弓をはじめ、巨大なカブトムシの角と花、何かの機械の一部、何個も節のある骨といった、わけのわからない物ばかりだった。
だが、よく見てみると一つの共通するものが見えてくる。
そう、全部ゼクスと呼ばれる侵略者の一部、又は道具であるということが。
「全く、結構売れ残っちゃたな。どうやって処分しよ……。」
そしてこれらは、青年の生活の一部である経営の売れ残りであった。
青年の名は高幡 誠(タカハタ マコト)。
黒の世界の者に殺されてから数年間、戦いと逃走と交渉の日々に追われていた。
遺産相続で両親の財産を受け継ぎ、その約3分の2をゼクス達の戦場に落ちていた珍しい物に費やした。
もちろん遺産相続も、各地が混乱している状態で行ったので誰のものだか分からないものもあったが。
そしてそれらを、別の色のゼクス達に売り込みに行ってその地域の金銭に交換してもらったりした。
また、当時も各地の情報なども物ではないが十分な資金源となっていた。
しかし、数年間でゼクスに侵食された日本はさらに姿を変えた。
今ではネットワークも復旧し、ブラックポイントが発生する以前の日本以上の情報のやり取りが行われている。
これらの影響によって通貨もネット内単位で行われているものも多く存在し、今はほとんどの金銭をこちらに回している。
その数年間の経緯においてカードデバイスというものに出会わなければ、高幡は途中で野垂れ死んでいただろう。
・ ・ ・ ・
ある戦場にて死に物狂いで物を集めていた頃、おそらくキラーマシーンに殺されたと思われる死体の近くに、それは十数枚落ちていた。
真っ黒なカードに、メタリックな銀の文字が書かれたカードだった。
一体どのような用途で使うのか、又は飾りなのかは検討が付かず、とりあえず売らずに所持することにした。
その正体は、後になって気がついた、もとい聞いてしまったというべきか。
一時期、胡散臭いスーツとサングラスの全身黒ずくめの男達が仲間になろうと近づいてきた。
高幡自身に利用され利用する関係ならまだ良かったのだが、そいつらはある日そのカードをポケットに入れてた一枚以外全て盗み出して行った。
しかし、高幡は彼らを全く信用などしていなかった。
いや、むしろ使えなくなったら情報だけ頂いてトンズラするつもりでいたため、その男たちの服に盗聴器と発信機を密かに取り付けていた。
結果的にそいつらはズィーガーと名乗るゼクスにあっさり殺されてしまったわけだが。
そこで聞いた話を整理するとわかったことが三つある。
まだ手元にそのカードが一枚だけ残っているのだが、それはカードデバイスというものの紛い物らしい。
そしてそのカードデバイスを、後から来た竜の巫女と名乗る謎の少女が何らかの形で取り扱っているということ。
さらに、カードデバイスとそれを扱う適正さえあればゼクスを擬似的に配下に置くことができるということだ。
つまりこれらの情報から分かることは、竜の巫女とやらが持っている本物のカードデバイスさえあれば、ゼクスと対等に戦える力を手に入れることができるという事だ。
もちろん、生き残ることを信条とする高幡にとってわざわざ復讐などのために戦いにに行く気など無い。
しかし、その時の高幡の経営は思わぬ敵によって悪化していた。
ケットシーの集団だ。
彼らは高幡と戦う気などなく、よく同じ戦場などで物品収集を行っている。
しかし、彼らとてゼクスだ。
より巨大なゼクスが戦い、珍しい物が落ちているという戦場の奥地までやすやすと入っていく。
そのおかげでこちらの商品は安く買い叩かれ、ケットシーの物品は高く買い取られた。
(畜生、あんな可愛い顔していながら、俺の商売を邪魔しやがる。)
当時の高幡は、ケットシーに強い対抗心を持っており、そう心で呟いた。
故に、どうしても本物のカードデバイスを手に入れる必要があると考えた。
ゆくゆくは、その決意が大きな波を起こすとは知らずに。
後日、竜の巫女という少女とカードデバイスという物について、経営の空いた時間、ネットや聞き込みによって情報を集めてみた。
やはり、というべきかカードデバイスは自衛隊や軍、それと各色の世界の上層部が所持しているという情報が入った。
逆に竜の巫女については、ほとんど情報が入ってこなかった。
後にその少女とは出会うことになるのだが。
・ ・ ・ ・
「龍の巫女かぁ、可愛かったけどな……。」
「確かに、妖精には負けるけどなかなかの可愛さでしたね。」
ソファーの後ろ側、ちょうど部屋の後ろの、ドア方面から優しそうな男性の声がした。
「……って、おあぁ!アポロン、もう起きていたのか。」
「いえ、社長が起きるのが遅いだけです。」
ヨーロッパにありそうな真っ白な服と金の模様が、金髪と同時に光り、まるで白の世界に所属していそうな男。
彼の名はアポロン・アガナ・ベレア。我が社第一の部下だ。
「今まで寝てたんですか?」
「いや、ちょっと回想にふけっていてな。」
「……?」
アポロンは頭にはてなマークを浮かべながら、高幡は再び回想にふけることにした。
そうだったな、コイツと出会ったのもその時だったな。
・ ・ ・ ・
それは赤の世界が、一度白の軍勢に牽制をかけて、後に日本海側から青の領域、新潟の佐渡に侵略をかけた後だった。
アウグストゥス将軍の率いる赤の軍勢は、各務原あずみと呼ばれる可愛い少女と、そのパートナーの胸がでっかくて美しい、リゲルというバトルドレスの女性がリーダーである軍に負けたそうだ。
まぁ、戦争が終わった後からその現場についた高幡にとっては、その勝敗についてはどうでも良いことだった。
とりあえず、新潟の海沿いに流れ着いた珍しい物が目当てでやってきた高幡とケットシー集団は、
せっせと回収作業をすることにした。
ケットシーの集団も大きな赤と青の戦争のためあまり近づくことはなかったらしい。
おかげで、あまりケットシー達から遅れを取ることはなかった。
赤や青の軍勢の武器やパーツがゴロゴロ転がっている所を見るからに、かなり激しい戦争だったのだろう。
それらに目もくれず作業をしている折、どこからかうめき声が聞こえた。
「うぐ……よ……うせ……いさん……ごぷぁ。」
うずくまった状態で倒れている男は、何かをつぶやいて血を吐いた。
まだ生きている人間なら助けたい。
そう思い高幡はその男の方を向いた。
しかし、彼は姿形は人間であったが、人間ではなかった。
ブレイバー。
かつての英雄の遺伝子をもとに、他のゼクスと戦えるようにするために生まれた、言わば強力な肉体を得た英雄。
そう、彼はゼクスなのだ。
しかし、いつもの取引相手もゼクスなのだから、恩を売っておけば後で利益になるかもしれないという高幡らしい考え方によって、そこのあたりは深く考えず、とりあえず助けるための方法を考えた。
そういえば情報を集めている時に知った、カードデバイスの効果を思い出した。
まず、高位のゼクスはデバイス所有者がいないと、各色の世界につながったブラックポイントから離れることができない。
デバイスの中に入ればゼクスは回復することができる。
つまり、この男が高位のゼクスならデバイス所有者が近くにいるか、もしくはこのゼクスは消滅しかかっているという事だ。
そしてそれはどちらでもなく、単に弱っているだけであることが彼の様子から察することができた。
ポケットにカードデバイスはある。しかし、それは紛い物だ。
本物に近づけた効果があるとまでは知っていたが、果たしてそれが彼を助けることが出来るのか。
それはやってみなければ分からない。
そう思った矢先、後ろから聞き覚えのある少女の声がした。
「またまがい物じゃな。まったくこの偽物はどれだけ出回っておるのかの。製作者を告訴してやりたいわい。」
振り向くと、140センチくらいのとても小さな少女がいた。
「お主は確か、高幡誠じゃろ。」
そういえばズィーガーのパートナーとなった少女、綾瀬の名前も始めから知っていた口調で話していたな。
「ええ、お初目に上がります。可愛い竜の巫女さん。ああ、本当に可愛い……。」
名前を知っていたことに関してか、高幡のハアハアと息をしながらにじり寄ってきたからなのか、竜の巫女は少し後ずさった。
その理由が後者であることに気づかされたのは、下の、うずくまっていた男が口から血を垂れ流しながらハアハア言いながらつぶやいた言葉だった。
「ああ、確かに可愛い。いつもは妖精さんばかり追いかけていたが、これが巫女服の力というものか……。だがやはり妖精さんの方が……。」
言うだけ言って、彼は再び地によろけながら倒れていった。
何かの危機を感じたのか。竜の巫女さんは本物のカードデバイスを引き腰で私た後、すぐさま姿を消した。
なんか悪いことしちゃったなぁと高幡は思いながらも、とりあえず倒れた男を助けることにした。
「キャプチャー!」
男は強い光を放ったデバイスの中に、掃除機に吸われるゴミにように吸い込まれていった。
・ ・ ・ ・
「まぁ、ついこの前のことだったけど、とりあえず生きていて良かったな。」
「そうですね、こちらにはリーファーやエンジェルとたくさん出会えますから。」
「んじゃ、仮面をかぶったディアボロスたちが緑の世界に何か仕掛けるようだから、様子でも見に行きますか。」
「様子を見るというのは、確かこういった商売の漁りに行くの隠語でしたっけ?」
「ああ、そうだ。どうやら、二足歩行する人間じみた鹿を狩ろうとする仮面の男が賞金首に上がっているらしい。」
「ライカンスロープを狩る仮面ですか。確かにそういった噂は聞くのですが。」
「そんでもってリーファー達が沢山行方不明になっているらしい。」
「それはホントか!?よし、今から行こう!」
「うん、まぁ、気持ちはすんごく分かるから、準備くらいしようぜ。
せめて、この事務所の中にあるゼクス由来の物はしまってこうよ。」
ゼクス・ゼロ? 輪廻の後奏曲 <りんねのポストリード> 了
あとがき
勢いで書いていたらいつの間にかこんなふうになってしまった。
誤字脱字は愛嬌。
続くかもしれないので生暖かい目で見守っていてくれればと。
レギュラーキャラとこちらのキャラがなるべく接することのないように。
最初は情報屋という観点から始まったのが、いつの間にか戦場ホームレス。
高幡はロリコンという設定で進行。
アポロンは妖精好きという設定で進行。
ロリコンとは違うのかもしれない。
とりあえず今回使ったゼクス用語
黒 ディアボロス ズィーガー 上柚木 綾瀬
緑 リーファー プラセクト ライカンスロープ
白 エンジェル ケットシー
赤 アポロン・アガナ・ベレア ブレイバー
青 キラーマシーン バトルドレス リゲル 各務原 あずみ
無 ブラックポイント カードデバイス キャプチャー 竜の巫女
うん、満足できるくらい書けた。
ちょくちょく編集し直していくよ。
テーマ: | 投稿日時:2013/01/02 02:47 | |
TCGカテゴリ: Z/X -Zillions of enemy X- | ||
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Φ野仁志 さん | [2013/01/02 21:56] |
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どうも~コメント失礼します。 アポロン・アガナ・ベレア…… イケメンなのに残念すぎるw 内容は、公式ストーリーと被せてあって良い感じです。 誤字…… >竜の巫女さんは本物のカードデバイスを引き腰で私た後 ここ、渡した、だと思うんですよ、と一応いっておきます。 続く……んですかね? それではではでは。 |
Fタカマサ/赤靴斬 さん | [2013/01/03 13:24] |
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コメントありがとうございます。 誤字の指摘は本当に助かります。 修正させていただきました。 駄文&駄構成でほんとすみません。 それでも読んでいただきありがとうございます。 ここで、裏話を三つほど。 まず、アポロン・アガナ・ベレア。 確かにフレーバーが面白い人物ということで選定しました。 しかし、書き始めようと思ったのはアポロンの境遇を思い出した時でした。 それについて知ってる方は、緑の方面に向かわせたのでバレバレだと思いますが。 次のもう一つの主役となる人物の種族は、リーファーにするつもりです。 今回の主人公である高幡誠。 彼の元ネタは、高幡不動という地名。 それとその地域(正確には現在の東京都日野市石田)で生まれた英雄、土方歳三。 新選組副長、である彼の子孫という裏設定で、名前を誠にしました。 ただ、誠という名前には少し迷いましたね。 マコトセカイコトノハの理論で変則的にフラグが乱立してしまいそうで。 今回のシナリオは、 黒の世界のストーリーの絶対零度の狂詩曲と、 青の世界のストーリーの佐渡防衛戦、 この2つのストーリーの裏話というシナリオを書きました。 そして次に、緑の世界のストーリー、仮面罵倒会につなげる予定です。 時系列は間違えないように、ストーリ0ー⇒英雄達の戦記1という流れで繋げています。 なので、とりあえずこの二つのストーリーを読まないと訳がわからないかもしれません。(そうならないように努力はしていますが。) 続くと思いますので、続きも読んでいただけたら幸いです。 |