<b><i>Vol.1 見えるものと見えないもの</i></b>
見えないものや感じないものは信じない。
ずっとそうやって生きてきた。
例えば「風」は触れることでその存在をしめす。
「時」は「時計」という媒体を用いることでその概念を感じることが出来る。
見えないものや感じないもの。
例えば「幽霊」。
「見える」人には「見える」らしい存在。
しかし、自分にとっては見えないし、感じることも無い。
だから自分は信じない。そうやって今まで生きてきた。
別に存在を否定する訳では無い。ただ、「信じない」だけだ。
「おはよう、春佑」
<ruby><rb>利里</rb><rp>(</rp><rt>りさと</rt><rp>)</rp></ruby>町立利里高等学校の校門前。
ホームルーム開始前はいつも焦って学校へ来る生徒でいっぱいとなる。
そんな中、<ruby><rb>北林春佑</rb><rp>(</rp><rt>きたばやししゅんすけ</rt><rp>)</rp></ruby>はいつものように友人を待ち合わせていた。
「おはようカガっち、今日は遅かったね」
「いやぁ、昨日の超常現象特番が面白くてね、ついつい夜更かししたんだよ」
「カガっち」とは春佑の友人、<ruby><rb>香々地裕樹</rb><rp>(</rp><rt>かがちひろき</rt><rp>)</rp></ruby>の愛称である。
春佑もだが、裕樹は平均的な身長、体重で、体系的に目立った特徴はない。
しかし春佑は怪奇現象や超常現象といったものを信じないのに対し、裕樹はそういったものが大好きな人間である。
なので彼は今SF研究会に入っている。来年は部長候補だ。
同じ2-1の教室に入りながら、裕樹は昨夜みた番組の詳細を話していた。
が、聞き手の春佑の方は、興味が無い話をされて半分疲れている様子だ。
「だからあれは絶対"過去の遺産"が関係していて・・・って聞いてるか?」
「一応聞いているが右耳から入って左耳および鼻の穴から抜けている状態だが」
「全く、これほど神秘的なものに興味を持たないとは・・・。では君に宿題だ。今日家に帰ったら夕方6時半にある"激突!霊能力対戦"を見て、気になった霊能力者を一人あげてきなさい」
「はぁ?俺そんなの興味ないのだが……」
とはいうものの、裕樹は一度言うとなかなか聞かない人物である。前回、超常現象関係の番組を見るように言われ、見るのを忘れたときは3時間ほど超常現象について力説されたことがある。
「じゃ、たのむな」
「ちょ、ま、待ってくれ」
ホームルーム開始のベルの音と共に、担任の先生が教室へ入ってきた。
放課後。衣替えをしたばかりだというのに風が冷たい。
校庭の木々はすでにその多くが赤く染まり、中にはその葉を散らしているものもある。
それらの落ち葉を照らすように、夕日は赤く輝いていた。
今年は寒くなりそうだ。そう思いながら、何も部活へ入っていない春佑は家路へと急いだ。
別に急ぐ理由は無いが、ゆっくり行く理由もない。周囲の景色は登下校で見慣れたものばかり。
高校を出て左折。しばらく民家や小さな商店が並ぶ、広いとはいえない道を進み、スーパーが見えたあたりで山の方へ向かう。
坂道は少ないが、学校までの距離は意外とある。自転車で登校したいのだが、残念ながら自転車で登校するには短い距離だった。
次第に店が姿を消し、民家も徐々に数を減らそうかというところに北林家はある。
「ただいま」
誰もいない家の中に声をかける。
「そういえば今日は姉ちゃんは遅くなるって言ってたな」
今日は姉、<ruby><rb>久美</rb><rp>(</rp><rt>くみ</rt><rp>)</rp></ruby>は仕事で夜遅くなるらしい。
22にもなって彼氏や恋人のうわさを聞かない、仕事熱心なOLである。
この家は3年前、事故で亡くなった両親が残したものだった。
丁度久美が働き始めた頃であり、春佑と久美、両方の落胆はとても大きかった。
一時期親戚に引き取られるという話もあったが、久美の強い意志により、現在の二人暮らしに至る。
春佑は着替えを済ませ、2階の自分の部屋へ向かった。
何もやることがなければ、部屋にごろごろところがってマンガを読む。
それが春佑のある意味では日課だった。
学校の宿題は夜やるのがポリシー。曰く、「夜の方が集中力が上がる」だとか。
うっかり宿題をやり忘れ、学校で大慌てでやった事があったが、それでもそのポリシーを貫いている。
「もう6時か……」
ふと、裕樹との約束を思い出した。
「別に興味ないんだが……」
また3時間ほど興味のないことにつきあわされるのは面倒だと思い、リビングへ向かった。
テレビ番組は食事のときくらいしか見ない。
春佑の部屋にもテレビがあるが、テレビ番組は映らず、ゲーム専用のものである。
数十分の前番組が終わり、CMが明けると、「激突! 霊能力対戦」なる番組が始まった。
「これか。裕樹が言っていたのは」
タイトルから予想されるとおり、何人かの霊能力者が、芸能人に対して前世や今後の事についてアドバイスをする番組であった。
時には霊能力者同士で言い争っていたりしたが、春佑からみれば全員が全員胡散臭く見えた。
「はぁ……まったく、俺には何を言ってるのかさっぱり……」
「そうね、いい加減ったらありゃしないわよね~」
ふと女性の声が聞こえた。が、姉である久美は仕事でまだ帰ってくるはずが無い。
「!!うわぁぁぁ!」
春佑が振り返ると、髪の長い、白い服を着た女性が立っていた。
いや、立っていた、と思ったのは地面を見ていなかった場合にそう見えるのであって、実際は浮いていた。
「あら、やっと私が見えるようになったのね」
「だ、誰だ!」
「あら、私はあんたのガーディニアスよ」
「が、ガーディニアス?」
「守護霊よ、しゅ・ご・れ・い。しらないの?」
いや、もちろん知っている。守護霊とか幽霊とか、そういった類は裕樹から散々聞かされている。
「まったく、一生懸命あなたを守っているというのに、全然気が付かないなんて……」
「守護霊」の目はなんだかうるうるしているように見えた。
「え……あ……いや、何のことなのかさっぱり……」
「そういえばシュンスケはそういうのを信じない性格だったわね。いい?私はあんたの<ruby><rb>守護霊</rb><rp>(</rp><rt>ガーディニアス</rt><rp>)</rp></ruby>で、あんたは私の<ruby><rb>守護対象</rb><rp>(</rp><rt>ガルダー</rt><rp>)</rp></ruby>。私の役割はあんたを護ることよ」
当たり前のようなことを説明された気がするが、それでも春佑はさっぱり理解できなかった。
なぜなら、今まで信じていなかったものが目の前に現れたからだ。
「そんな、守護霊なんて……」
「私が幽霊だって証拠、みせてあげようか?」
そういうと、その守護霊は春佑の腕を掴み、自分の胸へダイブさせた。
「――!」
が、アッサリと透り抜けてしまった。
「ね、触れないでしょ?だって私、幽霊なんですもの」
「し、しかしさっき俺の腕を……」
「フフフ、一部の幽霊は触ることが出来るものを調節することができるのよ」
なんとなくわかるような、わからないような、あやふやな説明に春佑は混乱した。
触ることができないが、触ることが出来るものを調整できる。
つまり、自分で触りたいものと触らないものをコントロールできるということだろうか?
「……なんとなくあんたの事はわかった。で、とりあえず名前を聞いておこうか」
「あら、紹介がまだだったわね。私はクラーメル・スフィアート。長いからクラーメルでいいわよ♪」
「クラーメルね……。で、何で俺の事を護っているわけ?」
「むぅ……つれないわねぇ。別に誰を護ろうが私の勝手で……」
言いかけた瞬間、風が吹いたような、冷たい感触が頬を伝った。
「……な、なんだ!?」
「来たわね、あいつら!」
そういうと、クラーメルは壁を透り抜けて家の外へ出て行ってしまった。
「ま、待ってくれよ!」
春佑はあわてて玄関から外に出た。
外に出ると既にあたりは暗く、あちこちで電灯が灯っていた。
玄関の正面道路、その電柱近くにクラーメルはいた。
視線を追うと、その先に怪しい影が見えた。
「むぅ……また雑魚ですか。いい加減にしたらどうなの?」
クラーメルが問いかけると、それに反応したのか、影はクラーメルに素早く向かっていった。
と、同時にクラーメルの手が光り、いつの間にか剣のようなものが現れた。
「<ruby><rb>不殺の霊剣</rb><rp>(</rp><rt>アンキリング・スピリウド</rt><rp>)</rp></ruby>。こいつで消し去ってあげるわ♪」
クラーメルは手にした霊剣を振り上げると、向かってくる影に素早く振り下ろした。
「たぁぁぁぁっ!」
光の太刀筋と共に、影は真っ二つに切り裂かれ、消滅した。
「す、すげぇ……」
春佑はその一撃の閃光に目を奪われた。
「ね、こんなやからがうろうろしてるのよ。そいつ等からあんたを護るのが私の役目。わかった?」
わかったようなわからないような、事実を見てもそんな感覚が春佑にはまだ残っていた。
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テーマ:落書き | 投稿日時:2006/12/03 01:46 | |
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