仔猫の住む家


ブランニューからモンコレを再開しています。
まだまだ分からない事が多いですが、楽しみながらプレイ中。

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【小説】モンコレSS その1

 六門世界で最大の都と言えば、聖都サザンになるだろう。
 聖エルド教の総本山にして、他国からの参拝者も多いエルド山を拠点とする教皇庁、その組織下には聖杯騎士団や神官戦士団と言った魔の存在と戦う治安部隊がある。
そして、聖都サザンが六門世界最大の都と呼ばれるもう一つの理由は、この大学院にある。古くは六王国期が終わりを迎えた百年後に創立、中原地方から多くの学生が集まり、いわゆる魔術と言った自然界の根源を日夜学んでいる。
聖都サザンを初めとする各地に「魔術師の学び舎」と称する分校も設立され、魔術の中でも高度魔術と呼ばれる召喚術、つまりは亜人種やモンスターを使役する魔術の研究もカリキュラムの一環として取り組んでいる。
 そのサザン郊外の町キエレからすこし南下した場所に眺めのいい丘があり、この女――オフィーリアはバスケットを右手に提げて、お菓子に使う木の実や果物を集めていた。年の頃は14歳と幼く、若草色のエプロンドレスを着ている。どこか、ザントラント地方で多く見えるアリアオロのような青い瞳に、亜麻色の長い髪の毛は腰の辺りで一総に束ねて、時折聞こえる鼻歌は空へと消える。上機嫌なのだろう。太陽の日を浴びた健康的な褐色肌の細腕から提げるバスケットの中には、ルビーに負けず劣らずの光彩を放つ、グランベリーやストロベリーと言った苺の類。そこら中に、甘酸っぱい匂いが漂っている。
「これだけあればマスターにも喜んで貰えるかしら?」
「マスター喜ぶ」「オフィーリア嬉しい」
 大きなグランベリーの果実を二人で運ぶ精霊は、ブラウニーと呼ばれるお手伝いが大好きな双子のバニラとミントで、オフィーリアの召喚獣でもある。バニラとミントはグランベリーの果実を掲げると、オフィーリアは膝を折って指先に一つまみする。
「果物いっぱい」「おいしい物いっぱい」
「そうね。苺のタルトやジャムにも使えるわ。二人ともありがとう」
「褒められた」「オフィーリアに褒められた」
「ちょっと待ってね、いま手伝って貰ったお礼を渡すから」と、オフィーリアはエプロンのポケットから、ブラウニー達にはすこし大きなクッキーとビスケットを渡す。
「はい、どうぞ」
「オフィーリアのお礼」「オフィーリアのお菓子」
「苺を使ったお菓子が出来上がったらまた呼ぶから。一度、送還するわね」
「オフィーリアお菓子作る」「もっと集める」
「ちょ、ちょっと!!」
 意識を集中して、送還の準備に入っていたオフィーリアだが、どうやらオフィーリアに召喚された双子のブラウニー達は限度を知らないらしい。いつの間にか、オフィーリアから受け取ったお菓子を帽子の中に入れると、草木を掻き分けながら獣道の方へと向かっている。既に、オフィーリアの視覚からでは捉えきれず、溜息交じりに呆れたのだった。
 仕方なく、オフィーリアはバニラとミントの帰りを待つ事にした。地平線の彼方では晴天で天候が良い事もあり、聖都サザンを取り囲む城塞のような壁が薄らとだが見える。
「まったく、バニラとミントには困ったものだわ。もちろん、お手伝いをしてくれるのは助かるけど、強制はしたくないもの」
 もちろん、召喚術の中には強制的に相手に言う事を聞かせる、つまりは相手の意識すらも支配する事もあるが、独学で学んだオフィーリアにとって精霊にしろモンスターにしろ友好的な存在でいたい。相手の気持ちを尊重し、その中で自分に協調するモンスターを召喚している。もちろん、お願いをして相手の機嫌を窺う事もあるが。
『大変大変っ大変なの』『人が倒れているの』
『いったいどうしたの?』
 不意に、オフィーリアの脳に直接バニラとミントの慌てた声が響いてきた。オフィーリアはバニラとミントを召喚している間、その精神は二人と繋がり、可能ならば五感でさえ二人と繋がる事が出来る。だが、召喚術に慣れていないオフィーリアは二人の視覚を借りる事をせず、脳に響く感覚を頼りに二人の現在地へと目指したのだ。
 オフィーリアが獣道の中に入ると、バニラとミントの感覚が強まる。
 二人の不安が近付く度に強まり、草木を掻き分けながらようやくたどり着くと、オフィーリアは息を呑み込んだ。少女がうつ伏せに倒れていたのだ。年の頃はオフィーリアと同じくらいだろうか。
「――――っ」
 オフィーリアはもう一度、息を呑み込んだ。
 土埃に汚れているシルクのドレスでもなく、無数の切り傷がある裸足でもなく、何より見惚れたのはその容姿。瞳は閉じていて分からないが線の細い顔立ちをしている。衰弱しているにも拘わらず、弱々しくも生命力があるのは、まるでサザンの石工が教皇庁の命で彫った大天使の石造を思わせる。
だが、それ以上にオフィーリアがうつ伏せに倒れている少女の介抱を忘れさせたのは、金糸のように輝くブロンドの髪の毛に、尖った耳だった。
「オフィーリア助けないと!」「このままじゃ死んじゃうの!」
「あ、うん」と、オフィーリアは双子の精霊の声で意識を取り戻し、瞳を閉じて強く願う。
(お願い、誰か力を貸して……)
 両手を胸元で握り締めオフィーリアは意識を集中すると、背後の草木が揺れる。
 しん、と。
 気付けば、幾つもの鋭敏な気配がオフィーリア達を囲んでいる。
ただ、姿は見せず、野生の本能と言うべき意識がオフィーリアの脳へ直接響くと、彼女はにっこりと微笑みながら「あなたが私を助けてくれるのね」と、言った。
 すると、オフィーリアの目の前に三角形を重ねた六芒星が出現し、先ほど意識を共有した獣道に生息するモンスターの召喚を行う。オフィーリアが強く願うと、空中で紫色をした六芒星の門が開く。
 そこから。
 鋭敏な嗅覚と一緒に、一匹の狼が灰色の毛並みを靡かせて姿を現せた。
「あなたが私を助けてくれるのね」と、もう一度言う。
 灰色の狼――グレイウルフと呼ばれるモンスターは何も言わない。ただ、鋭い眼光でオフィーリアを睨みつけ、うつ伏せに倒れている少女へと視線を落としたのだった。
 召喚術とは、対象とする者の<真の名>を記した召喚札と呼ばれる道具を介して、遠く離れた対象でさえも時空を超越して呼び寄せる事が出来るが、独学で学んだオフィーリアにとって道具は無用である。何しろ、オフィーリアの場合、召喚術とは対象の使役ではなく力を借りると言った方が正しい。
その為、彼女は低級のモンスターしか召喚できないでいるが。

 グレイウルフの背に少女を乗せたオフィーリアがキエレの町に戻ると、急いで酒場と兼業の宿屋――千夜一夜に掛け込んだのだった。
「大変ですマスター! 女の子が傷付いて、手当てをしてあげないとっ」
「フィー……、お前はどうしていつも面倒事を持って来やがる」
「だって、放っておけないじゃないですか」
 グレイウルフを送還したオフィーリアは少女を背負いながら瞳を滲ませ、オーク木のカウンターから覗いていた男――リュナイは眉間に皺を寄せて悪態を吐く。年の頃は22歳と若く、この千夜一夜のマスターでもある。漆黒のような黒い髪の毛は肩口に掛かる程度に切り添えられ、凶悪なモンスターでさえたじろぐ程目つきの悪い切れ長の一重を持つ。
「早く手当てをしないと。マスター、2階の空き部屋を借ります」
「そいつは、ちょっと待てフィー」
「え?」
 リュナイの低い声に反応して、樽を縛っていたロープがまるで自我を持っているかのようにその身をくねらせながら少女の身体へと巻き付いたのだった。
「なっ、なにをなさるんですか! いきなり女の子を縛るなんて! マスターは変態ですか!?」
「誰が変態だ! お前はそいつの耳を見て何とも思わないのか?」
「確かに私達人間とは異なりますけど、だからと言って瀕死の女の子を見逃すわけにはいきません」
「俺が言いたいのはそう言う事じゃない」
「うぅ……」と、ロープに縛られた少女は呻き声を上げ、ゆっくりと碧眼の瞳を開ける。
「わ、わたしは……」
「ちょっと待って下さい、いまロープを解きますから」
 身動きが取れず倒れ込んだ少女を縛っているロープをフィーリアが解こうとするが、魔法を帯びたロープはかたくなに抵抗し、少女の身体を締め付ける。
「……リュ、ナイ」
「はぁ……。久しぶりだな、ノエル」
「え?」
 オフィーリアは驚きながらも、縛られている少女とリュナイを交互に見つめる。
「こいつはシルヴィアの竜姫ノエル。竜達の姫だ」
「お姫様? だからと言ってロープに縛る理由が分かりません」
「フィー、お前は知らないかもしれないが、シルヴィアの竜姫には時空を超えてドラゴンを召喚する能力を持っている」
「ドラゴンを召喚……まるで、召喚術みたいです」
「そうだ。こいつは、ところ構わずドラゴンを召喚する性癖を持っていやがる。あれは10年ほど前になるか、竜鳴の谷ドラグリアに行った時の事だ。人間の俺が珍しかったのか、俺の後ろを付いて来るなり泣き喚いては大型ドラゴンを召喚して、その度どれだけ俺が死ぬ思いをしたか……いま思い出すだけでも悪夢がよみがえる」
「で、でも……こんなに衰弱している女の子を縛るなんて納得いきません」
「リュナイ……やっと、会えた、わ……」と、身動きの取れない身体でノエルがリュナイを見上げると安心したのだろう、そのまま笑みを零して意識を失ったのだった。
 ゆっくりと、魔法を帯びたロープはノエルの身体から解ける。

「ここは……」
 真っ白なベッドの中でノエルが目覚める。
 木々を編んだ茶色い天井が広がり、ノエルは視線だけを動かして辺りを見渡すと、見知らぬ少女がイスに座ったまま眠っていた。珍しい褐色肌に見惚れつつ、この少女が自分を介抱してくれたのかと理解して、自分の置かれている状況を振り返る。
 ドラグリアのしきたりに嫌気が差し、リュナイに合う為に人間界に来たところゴブリンに襲われて、なんとか逃れるも力尽きたのだった。
「んん、ん……はぁ、これは、お目覚めになられたのですね」
「あなたがわたしを?」
「はい。オフィーリアと言います、お姫様」
「ノエルで結構です。わたしを助けて下さったのはあなたですね」
「ノエル様?」
「様は付けなくてもいいですよ」と、ノエルは微笑みながら上半身を起こすが、体調が完全に戻ってはいないのだろう、身体がふらつくとオフィーリアが慌てて支える。
「ごめんなさい」
「い、いえ……」
「おぅ、意識を取り戻したか?」
「リュナイ! やっと会えた。やっと会えたわリュナイ!」
「こ、こら、くっ付くな。暑苦しい……」
 ドアが開いてリュナイが部屋に入るとノエルは起き上がり、足がもつれながらもリュナイの元にたどり着くと、ノエルはリュナイの胸元に頭を埋めたのだった。
「ご、ごめんなさい……それより、その手に持っている物は?」
「粥だ。まぁ、なんだ。さっきは悪かったな。これは食っていまは休め」
「はい!」
 リュナイに即されながらノエルがベッドに戻ると、オフィーリアに介抱されながらノエルは上半身を起こしたまま木のスプーンで粥を一口啜る。
 そして、リュナイは後悔した。
 ノエルの喜びに触発されてか、頭上に三角形を重ねた六芒星が浮かび上がる。それは、獣道で見せたオフィーリアの召喚の門とは比較にならない程、大きくて炎のように燃えている。中から、人間の頭一つ分ぐらいある鋭い爪が現れると、赤い鱗が覗き見える。
 それは、聖都サザンの南の盾ガルシルトとブクマルタの国境にある火炎樹の森の守護獣であり、稀に姿を現すと言われているファイアドラゴンそのものだった。
 リュナイは壊れた天井を見上げながら、屋根も無しに今夜は寝ないといけないのかと心の中でぼやいたのだった。

登録タグ: モンコレ  二次創作  書いてみた 

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テーマ:たまには小説の話でも投稿日時:2012/06/07 00:36
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私服いつも 如月くおん さん [2012/06/07 00:41]
自分の時間ができたのでモンコレSSを書いてみました。
まだ、序盤なのにこの長さ……(汗)
それに三人称で書くのも約3年ぶりですが、文章にはなっていますね。

時代背景はB.R.150年ぐらいですが、たぶん何周目かの世界なのでオリジナル設定を含んでいます。反響があれば、最後まで書くつもりです。
あと、問題があれば削除します。
あばた2。 蔵女 さん [2012/06/07 21:10]
流石に結構な量ですね。取りあえず問題は無いと思いますよ。

小説系の専用サイトに書いて外部リンクで~とか昔見たのです。
私服いつも 如月くおん さん [2012/06/08 06:03]
コメントありがとうございます。
小説サイトに投稿も考えましたが、どなたか忘れましたがバクマン「PCP」の小説を直接貼り付けている方もいましたので。

こんな駄文を最後まで拝見して頂いている方もいますので、もう少し短くして続きを書こうかなとは考えています(汗)
無題 TASUKU さん [2012/06/08 13:54]
こんにちは。
遅ればせながら読ませてもらいました。
ホーリィの手記にもにた柔らかい空気が良いですね。
ユニット以外にもこっそり(?)カード名が混ざっていて探すのも楽しいです。
続き楽しみにしていますw
私服いつも 如月くおん さん [2012/06/08 19:01]
コメントありがとうございますww

今回、モンコレを知らない方でも読んで頂けるように世界観の説明をしたので、最初の方は硬い文章になっていますが、セリフは柔らかくしているので楽しんで頂ければと思います(汗)

>ユニット以外にもこっそり(?)
地形は結構悩んでいます。
一番悩んだのは主人公の名前ですけどww
ソラステルよりブクマルタの方が世界観的には合っているのかなと思っていますが、ガルシルトを出したので、設定的には何周目かの世界になっていますよww


このまま反響がなければどうしようかと思ってました(汗)
私服いつも 如月くおん さん [2012/06/08 20:55]
あと、今回は封印の札より魔法のロープを選んでいますよww