◆「トリシューラ」環境 総括
「《氷結界の龍 トリシューラ》が出せるかどうか」
2010年度3月環境に存在する各デッキの研究における出発点はそこにありました。
《氷結界の龍 トリシューラ》は、デュエルターミナルにて登場した歴代最強とも言えるシンクロモンスター。場に召喚されると全ての領域からカードを奪い去る、アドバンテージの塊とも言える、圧倒的存在感を誇るこのモンスターの登場により、それまでの遊戯王環境は大きく変動したと言えます。
「トリシューラ」が出せるデッキが次々と研究そして開発される一方、相対的に「トリシューラが出せないデッキ」は駆逐されていき、続いて「いかに早く、相手より多くのトリシューラを召喚できるか」という課題追求から、環境は高速化の一途を辿りました。
それを最もよく体現したと言えるのが、環境最多を誇った「インフェルニティ」です。
つい最近デザインされたこの「インフェルニティ」は原作を忠実に再現しており、手札が0枚の時という限定的な状況ではありますが、それを利用して多種多様な特殊能力を発揮する事で、一気に必要なパーツを揃えて「トリシューラ」を3体出して物量差をつける超高速デッキです。
"トリシューラを連発する"という点で他のトリシューラデッキとは一線を画すインフェルニティ。
今期のメタゲームは、インフェルニティからスタートする事となります。
◆『インフェルニティ』中心のメタゲームから考える環境推移
トリシューラを大量に召喚する「インフェルニティ」は、デッキの半分がコンボパーツで、どれか一枚でも引けばコンボが始動する恐ろしい高速デッキでありましたが、弱点はその「手札が0枚でなければならない」という特殊な条件にありました。
手札が無い事を条件に、場と墓地という「既に公開されている情報領域」の中でしか動けない事からそこに干渉できるカードを選択する事で対策とされ、インフェルニティは駆逐されていきます。
手札が0枚である事から、以下のような弱点が浮き彫りとなってきました。
①対策を用意されると切り返しが難しい事。
一枚同士の対応であればまだ対処が可能ですが、複数枚の対策を用意されてしまうと一気に対応が難しくなります。
②安定性が極めて低い事。
環境初期のインフェルニティに共通する弱点でありました。
環境が出来上がるにつれ、《封印の黄金櫃》《強欲で謙虚な壺》を採用し安定性を高めたインフェルニティが構築されていきましたが、安定性を追求するとコンボ開始のターンが遅れ、その間に相手に対策を用意されてしまうジレンマに陥ってしまうその脆弱性もまた弱点とされていました。
公開情報への関与というヒントから、対策が検討されていきます。
①ボードコントロール
魔法、罠、効果モンスターによる特殊能力など半永久的に適用される効果はインフェルニティ対策として機能しました。これは昨今増加傾向にある「システムモンスターデッキ」各種に対する対抗手段と同じである事から、従来の高速デッキと比べ、インフェルニティは比較的対策しやすい部類であったと言えますが、これらのカードはリセット効果のあるカード、特に《スターライト・ロード》を回避する《ハリケーン》一枚で崩壊してしまう事から、そこまで高い信憑性は得られないままでいました。
②墓地対策
遊戯王において高速展開するデッキが「特殊召喚」を多用するのは自明な事ですが、インフェルニティには手札が無いため墓地からしかカードを増やす事ができない、という事が分かります。そのため墓地対策はインフェルニティに対する有効な手段として、多く選択されてきました。
上述のような対策を用意する事で他のデッキタイプはインフェルニティに対応力を高めていく事が出来るようになりましたが、中でも特に、前環境から存在する「旋風BF」は環境に対する一つの回答になり得ていました。
「旋風BF」。
前環境から存在していて既に馴染み深い「ブラック・フェザー」を用いた、こちらもまた原作を忠実に再現したデザイナーズ・カードたちで構成されたデッキです。かつての「ライトロード」を彷彿とさせるほど、モンスターそれぞれのカードパワーが高めにデザインされており、それらを後押しする《黒い旋風》によるアドバンテージの供給がデッキ全体の高い安定感に貢献しています。
では何故「旋風BF」は「インフェルニティ」への回答となったのか。
「旋風BF」はシステムモンスターを多く擁し、それが恒久的に供給されるデッキの構造上、比較的攻め手に事欠くことはないため、それ以外のスロットに、環境に多い他構築に対する回答を採用する事でいかに環境が変化しようともそれに適合していく構築を実現可能となった事が、その所以であると言えます。
採用される除去カードの存在。そしてその有用性。
特殊召喚を複数回行うデッキに対してはインフェルニティに限らず、《王宮の弾圧》が有効である事。
そして《ゴッドバードアタック》というフリータイミングでプレイ可能な万能除去という立ち位置を確立したBFの必殺技。これらを駆使する事によりトリシューラへ繋ぐ動きの中で致命的なカードを消してインフェルニティ側のアクションを潰していく動きは効果的だったようです。
他には《黒い旋風》によるサーチ効果とは相反しますが、《ハリケーン》に対抗されない《王宮の弾圧》とも言える《ライオウ》もまた、BFに採用し得る対策として活躍しました。
《ライオウ》を突破できる攻撃力を備えたモンスターはインフェルニティにはおらず、結局シンクロへ繋ぐ事で相手モンスターを突破しようとするものの、《ライオウ》がその行く手を阻みます。
墓地対策としては《D.D.クロウ》が多く選択されました。
他にも優秀な墓地対策は数種類存在しますが、それらがどれも「メインデッキから入るほどの汎用性が無い」事、そして《D.D.クロウ》は何ものにも干渉されない手札から使う事ができるため「非公開領域からの対策が可能」という点が評価され、使用率に反映されたと言えます。
また、「BF」と同じく鳥獣族である事から最低限《ゴッドバードアタック》のコストに使えるという点も、メインデッキに採用されやすい理由であったのではないでしょうか。
以上の通り、先に述べたインフェルニティ対策を、対策としてというよりも寧ろ無理なく自然にデッキ自体に組み込む事が成功した事、そして何より「それらを支える、デッキとしての安定性が十二分に備わっていた」事がBF隆盛の理由であったと言えます。
◆『旋風BF』環境?
東日本環境は、選考会までの大型非公認大会の結果からも見て取れるように、「旋風BF」と「インフェルニティ」のぶつかり合いとなる事が予想されていました。
しかしその二つが戦う場合、「旋風BF」に対しては「インフェルニティ」側に不利がつく事から「旋風BF」が増える事を予想し、同系対決を制する事が可能な構築の「旋風BF」が代表権を勝ち取る事となりました。
そしてもう一つ、「インフェルニティ」に対して有効なデッキタイプとして「儀式天使」も次第に頭角を表してきました。
東日本での予想以上の「旋風BF」の流行の結果を受け、西日本選考会環境は大きな変化を見せます。
西日本環境においては多種多様なデッキが選択されましたが、そこでは
・「インフェルニティの速度には間に合わなかったけれど、旋風BFには対抗可能なデッキ」であった事
・IF・BF両方に対策可能な《聖なるあかり》がメインから採用可能である構築
という傾向が主だって見受けられました。
インフェルニティの超速度によって駆逐されてしまった数多くのデッキが復権した西日本では「マシンナーズ・ガジェット」や「猫シンクロ」といった少し前の環境にいたデッキたちだけでなく「QDW」「カエル帝」といった海外で開発されたデッキ、そして「ナチュルバンブー」「植物猫」という新たなデッキも生まれ非常に興味深い結果になったと言えます。
総じてBFが多かった選考会環境。
しかし今期を"BF環境"であるかと言われれば、果たしてそうだったと言い切れるでしょうか。
実際、BFに勝てるデッキが結果を残した西日本代表選考会。
それほどまでに、まだ今期の環境には「可能性」が秘められている事がご理解頂けるのではないでしょうか。
テーマ:日記 | 投稿日時:2010/08/02 13:12 | |
TCGカテゴリ: 遊戯王OCG | ||
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